まじゅーん診療ブログ

2014/02/20

鼓膜は耳の穴の奥(成人で約35mmの深さ)にある膜で、直径約8-9mm、厚さは約0.1mmでその名の示す通り、太鼓の膜のようになっています。鼓膜は外界から入ってきた音を振動に変化させて耳小骨に伝える機能があります。(図を参照してください)

529px-Trommelfell

本来、鼓膜は閉じているのが正常ですが中耳炎や外傷などが原因で破れてしまうことがあり、この状態を「鼓膜穿孔」と言います。急性中耳炎や鼓膜切開後は鼓膜が再生して穿孔は閉鎖する場合が殆どですが、慢性中耳炎などで数か月以上にわたって鼓膜穿孔が残存している場合や穿孔が大きい場合などは自然に閉鎖する可能性は低くなります。鼓膜穿孔が長期間続いた場合を「永久穿孔」と言います。

 

永久穿孔があると困ることがいくつかあります。①穴の大きさや程度にもよりますが、聞こえが悪くなります。いわゆる難聴です。②また、外界から細菌が侵入しやすくなり、中耳炎になりやすくなります。

 

上記のように難聴や耳漏で日常生活に支障がでますので、永久穿孔がある場合は、可能であればこれをもとのように戻すことが望ましいです。その治療法として主に外科的治療と保存的治療の2つがあります。(今回は鼓膜穿孔のみの場合の話に限らせていただきます)

 

外科的治療とはずばり手術のことです。穿孔を塞ぐように別の部分から鼓膜の代わりになる組織を移植することで鼓膜の再生を促します。移植する組織は耳の上にある側頭筋の筋膜や皮下の結合組織などを使用する場合が多く、その手術方法には大きく分けて2つに分けられます。穿孔の大きさや年齢などにもよりますが

①鼓膜形成術ないし鼓室形成術Ⅰ型・・・通常は入院し、全身麻酔で行う。入院期間は1-2週間、穿孔閉鎖の成功率は90-95%

②接着法・・・一泊入院ないし日帰りで行う。局所麻酔が多い。穿孔閉鎖の成功率は70-80%くらい。

どちらも一長一短あり、手術のリスクもやや変わりますのでどちらの方法が良いかは実際に手術する執刀医と相談されるとよいと思います。また、施設の方針によっては②は行っていない病院もあります。注)当院では外科的治療は行っていません。

 

保存的治療とは刺激を与えることで鼓膜の自然再生を促す方法です。主に穿孔が小さな場合に適応になります。特殊な紙を張り付ける簡単な方法から、自分の血液を用いて点耳液を作成しこれを点耳することで鼓膜再生を促す方法など様々にあります。手術と違い外来通院で可能であり、手軽で費用も安く済みますが、成功率が低いのが欠点です。当院では自己血清点耳液を用いたASET法を行っており、現在までのところ23人中15人が閉鎖に成功しています。(週に1回の通院と2週間に1回の採血が必要で閉鎖までの期間は平均73日でした)ASETについての詳細はまたいつかブログで紹介したいと思います。

 

そのまま永久穿孔を放置している方も外来で良く見かけます。その場合は治療を勧めますが費用の問題、忙しい、手術が怖い、今はあまり困っていないなどの理由で断られる事もしばしばです。けれども高齢になり補聴器が必要になっている方をみると耳鼻科医として残念に思います。気になる方は一度耳鼻科で相談してみてください。

 

今回は以上です。